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日本の農業で世界へ~起業の記録~

京都大学農学部卒業、外資戦略コンサル、ITベンチャー役員を経て、製菓会社の社長として経営再建を経験。現在、米国バブソンMBA留学中、2016年6月D-matcha株式会社(https://dmatcha.jp/)を設立。

経営再建➀ ~社長になるまで(前編)~

経営再建

これは、私が経営再建で経験した事実です。

当時、26歳。菓子会社の経営再建を行うべく、社長に就任しました。

私なりに必死で考え、失敗し、人に助けられ、成長してきた記録です。

同じ境遇の方々の少しでもお役に立てることを願い、書き記します。

 

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社長に就任するまで(前編)

 

2012年7月某日、当時役員を勤めていたIT会社の社長(Iさん)から「ある菓子会社の買収案件の話がでている。一度仲介会社の話を聞いてみようと思う。」と突然、伝えられた。

当該IT会社は製菓会社のECサイトの運営を行うとともに、自社菓子ブランドの店舗運営を行うなど、製菓の分野においても経験を要する会社であり、私は当時、この製菓関連の事業の責任者をしていた。

当初、その菓子会社について良く知らなかったが、ホームページを見ると都心を中心にターミナル駅に店を5店舗構えていることがわかった。

こういった買収案件の場合、ディールがその先に進む確率は非常に低いもの。その時の私は、まさかその会社の社長になるだろうとは予想だにしていない。

 

8月半ばごろ、I社長から「以前から親交のあるベンチャーキャピタル(以下VC)に話をしたところ、この案件に対して興味を持っているようだ。資金的にも協力を得られる可能性があるか、もう少しディールに関わっていこう」と報告があった。

このあたりから、私も案件に関する打合せに参加することとなる。

9月の初旬から中旬にかけて本案件のコンペを行い、9月末にはdealを実行するという非常にタイトなスケジュールだった。

ここから、2週間、私は主にVCを説得するためのデューデリジェンス(買収先の企業価値評価)を行うことになる。

 

デューデリジェンス

外資戦略コンサル時代、デューデリジェンスの経験は、何回かあった。

コンサル時代に経験した一般的なデューデリジェンスでは、主な依頼主は投資ファンドであった。彼らが買収に際して、投資銀行に財務デューデリを、弁護士に法務デューデリを、コンサルにビジネスデューデリ(今後の戦略や収益性の予測)を依頼し、買収の判断可否、コンペに臨む資料作成などを行う。

しかし、本件の場合、買収金額が1億円を切るということ、予算の制約があり、基本的に自社でのデューデリジェンスを、私と1人の部下Jさんの計2名だけで、行うことなった。大企業と異なり、中小企業には常に予算の制約があるのだ。

 

買収対象会社は、NYの本店から国内のFC運営権利を得て運営しており、高付加価値商品を提供するニッチプレイヤー。創業から約10年の実績を持ち、7年間で16店舗まで急拡大した後、既存店売上低下に伴う店舗契約の終了によって、2012年には5店舗まで規模は縮小。このような急激な売上高の低下に伴い、損失も売上高の10%以上でているような状況だった。その当時、私が店舗を訪れて商品を食べたときの感想も決して良いものではなかった。 

 

しかし、財務諸表をみてみると、当時残っている店舗の既存店売上高はここ数年落ち着いており、何よりも本部経費、物流費、製造原価、そして店舗人件費といったコスト面での割高感が見てとれた。

コスト削減を行うことでまずはキャッシュフローの黒転を短期に狙い、その後地道な売上向上施策によって既存店売上を押上げて立て直した後、新規店舗を展開していく、というシンプルで骨太な戦略を十分に見出すことができた。特に、本部経費は、IT会社の管理本部と業務を統合できること、買収の枠組みで製造部門は別会社に売却することが決まっており変動費化が見えていたこと、物流の効率化、混雑時と相関しない店舗のシフトなど人件費の合理化、等コスト面の改善は確実性の高い施策にまで落としむことができた。 

 

VCへの提案

このような分析を元に、VCの経営陣、ファンドの責任者などにプレゼンを実施しにいった。

彼らは、手堅くコストを削減し、その後拡大するという確度の高い戦略方針に共感した。売上高の目標についても、30年間近く1200億円前後で推移している市場において1%弱のシェアを取るという目標は現実感があるとの評価だった。

 

このあくまで長期トレンドを重視するVCの見方は勉強になった。その上で、彼らが懸念していたのは法務リスクであった。

今回の場合、仲介会社から提案されたのは、当該会社の買収を、当該運営会社の子会社を設立し(新設分割)、事業を当該会社に譲渡、その後新規に設立した会社を買収し、残った運営会社を破産させるという、会社分割によるM&Aというスキームだった。

このスキームのメリットとしては、債権者に対する事前合意が必要無いため、迅速にM&Aが終了すること。

一方で、デメリットとしては、債権者から新会社に対して何かしらの法的アクションがあり得る。

VCは、全く関係の無い新会社を設立し、そこに事業を譲渡する、事業譲渡を提案し、私もI社長もその方が良いと考えた。事業譲渡の場合、旧会社の債権者に対して、事前承諾をとるため、M&A完了までのプロセスに時間は要するが、その後のビジネスは円滑に進められる可能性が高い。

 

仲介会社を通じて、事業譲渡へのスキーム変更を提案したが、当該会社が資金繰りに極めて窮しており、10月以降に交渉が流れ込むと運営ができなくなり、案件自体が無くなる可能性が高いこと、当該M&Aコンペ参加予定の別会社が新設分割によるM&AでOKをしているという事態から、新設分割によるM&Aによって案件を進めざるを得なくなった。

VCとも相談し、簡易的な法務デューデリを弁護士に依頼したうえで、契約書に当該リスクを軽減する旨を盛り込んだ上で、参加する方針に決まった。

仲介会社にM&Aや経営再建に強みを持つ弁護士に依頼をし、契約書を一部変更することで法的リスクの軽減を行った。債権者からの法的アクションのリスクについては、旧会社が債権者に対してしっかりと説明責任を負い、新会社には迷惑がかからないようにする、という約定を盛り込んだ。

 

客観性を保つということの難しさ

コンペへの参加が決定した以上、勝たなくてはいけない。チームのメンバーには不思議とそういった思いに駆られるようになっていった。

買収案件において客観性を保つというのは必要不可欠だが、実際に進めていくと、時間的な制約、買収先、競合先とのかけひき、心理的な要因から知らないうちに客観性を保ことが難しくなってしまう。

今だから言えることだが、このような買収案件ではディールを進める前に案件参加の可否を決める自社としての基準を設定し、案件途中でも冷静に当該基準に遵守することが必要である。

 

(C)2016 daikimatcha

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