日本の農業で世界へ~起業の記録~

京都大学農学部卒業、外資戦略コンサル、ITベンチャー役員を経て、製菓会社の社長として経営再建を経験。現在、米国バブソンMBA留学中、2016年6月D-matcha株式会社(https://dmatcha.jp/)を設立。

経営再建⑩ ~国税差し押さえ、そして店舗が無くなる(後編)~

国税局への異議申し立て、直談判

国税局の差し押さえに対して、異議申し立てを行う場合、3つの段階を踏むことができるようになっている。
①異議申立ては、処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六十日以内にしなければならない。
②審査請求 異議申立てに対する税務署長等の決定があった後の処分に、なお不服があるときは、その通知を受けた日の翌日から1か月以内に国税不服審判所長に対して「審査請求」をすることが可能。
③裁判所へ提起 審査請求に対する国税不服審判所長の裁決があった後の処分に、なお不服があるときは、その通知を受けた日の翌日から6か月以内に裁判所に対して訴えを提起できる。
 
弁護士にお願いをして異議申立てを内容証明で送付し、その後、とにかく事情を聞いてもらうため直談判に行った。我々新会社としては、経営再建に集中したかったし、新会社としてはきちんと納税しているのだから、何の非もないことを早く国税側に理解して貰いたかった。我々が買収した資産に対する差押えを一刻も早く解除してもらい、異議があるのなら旧会社に対してアプローチしてほしかった。しかし、彼らの業務目的はシンプルだ。合法的に少しでも多くの税金を回収することだ。話を聞いて担当者は同情はしてくれたが、差し押さえを解除してくれることは無かった。
我々は審査請求まで行い、思いもかけず国税局の上級職員まで出てきて話を聞いてくれたが、やはり差し押さえの解除は認められなかった。「個人として事情はわかるし理屈もわかるものの、組織として前例がないことはできない」というのが彼らのスタンスだった。彼らは彼らの目的に極めて忠実であるとともに、組織柄として例外措置を容易に認められない立場なのだろう。
 
この先、裁判をするのか?確かに勝てる可能性はあるかもしれないが、極めて限られたお金、時間、精神的余裕を裁判に振り分けられるのか?恐らく国税側は最高裁まで闘うだろう。差し押さえという手段にでている以上、法的根拠が十分にある、という判断を国税側がしているからだ。
我々、零細企業の経営再建にそんな余裕はなかった。私自身の本心としては、資産を失うのはあまりに惜しかったし、闘って勝ち今後のためにも前例になりたいという気持ちがある半面、目下再建中で肉体的にも精神的にもタフな状態で、正直裁判を行うだけの余裕は無かった。さらに、裁判となると費用もかかる。最高裁まで、となれば尚更だ。株主全員とも良く相談し、泣く泣く多額の敷金を諦めて本業に集中することに決まった。 
 

店舗契約の解除

この間に、1つのデベロッパーを除いて、契約の解除に関する申し出が入る。賃貸借契約には、店舗の借主に差し押さえが入った場合、契約を解除できる項目がある。今回の場合、差し押さえられたのは、我々新会社では無く、旧会社だったのだが、デベロッパーから見ると本件自体に不信感をいだき、新会社に対しても不安感が生まれてしまったのだろう。
10月に買収したのち、翌3月末には、なんと1店を除いて引き継いだすべて店舗の契約が解除されてしまった。さらにその残りの1店舗は、家賃比率が高く、依然赤字だった唯一の店舗だった。数千万円の敷金という資産を失った上に、キャッシュを産むはずの店舗もなくなるという絶望的な事態だった。
雇用を守るために、収益を出すために、新規出店を行う必要があった。しかし、新規出店をするためにはキャッシュが必要であり、収益面(我々のターゲットはフリーキャッシュフロー)でも計画と大きな乖離を起こすリスクはあった。販売責任者のSさんのみにこの悲惨な状況を伝えたうえで、当初の計画とは全く異なる新規出店を行うため、怒涛のデベロッパー営業を始めることとなる。
 
ちなみに、新会社には、中小企業の雇用を守ることを目的とする公的機関も一部出資していた。
もちろん別の組織ではあるのだが、母体が同じ国である国税局よる差し押さえによって、われわれ新会社の出資者である公的機関側の目的達成は危ぶまれる事態になっていた。なんという矛盾だろう。どちらも、それぞれの組織の目的を純粋に遵守はしようとしているが、全ての状況を考慮したうえで全体最適な判断を下すこと、ましてや前例に無い判断を行うことなど、公的機関という組織の性質上、極めて難しいのだと実感した。
 
それとともに、倫理的に正しい信念を持ち行動をとっても、強い組織の論理に屈してしまわなければならない弱い組織の悲しさ・悔しさと、それが故に何としても会社を軌道に載せなければ、という気合が改めて入ったのだった。 
そして、弱い組織であるがゆえに、避けなければならない・避けることができる法的リスクには敏感にならなければならない、とも感じた。
(C)2016 daikimatcha
 

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