日本の農業で世界へ~起業の記録~

京都大学農学部卒業、外資戦略コンサル、ITベンチャー役員を経て、製菓会社の社長として経営再建を経験。現在、米国バブソンMBA留学中、2016年6月D-matcha株式会社(https://dmatcha.jp/)を設立。

経営再建③ ~旧会社引き継ぎから新会社設立まで(前編)~

9月末日に全社員との面談を行い、10月から当時自由が丘にあった会社の本部へと毎日通い引き継ぎ業務をしていくこととなった。今でも忘れないのは、最初に本部事務所に入った時の印象。店舗の裏にある狭いスペースにて、とても重たくどんよりとした空気の中で7人程が働いていた。店の外に大きなテラスが合ったので、そこで面談をしていき、各店舗の社員とは私が出向いて各店舗で面談をしていくことにした。 
 

(社員との出会い)

各人と面談していく中で驚いたのは、前社長に対する信望の深さ、販売社員の質の高さだった。女性社員のうち何人かは、私と面談をするなり、「前社長を心底信頼していて、今後一緒に働けないのは辛い」と涙を流したことは今でも鮮明に覚えている。
創業社長への想い、20代半ばそこそこの若者が時期社長になる不安、会社がうまくいかなくなってしまったこと、様々な想いが混じった涙なのだろう。
 

(前社長への忠誠心、新社長への不安)

前社長は、NYのこのブランドを見出し、それを日本に持ち込み、事業を拡大してきた。その目利き、販売力、人を駆り立てる推進力に富んだ方だったのだろう。社員にとってはカリスマ的存在だった。しかし、社員の給与を2か月も未払いにしていた。
給与未払いの状況で、前社長への信頼は全く揺るいでいないというのは、驚くべきことであった。しかも、その未払い給与を引き継いだのは新会社であるのに、社員からそのことを表立って感謝されることはなかった。
 
新社長である私への不安は、今思えば無理もないことだった。
当時正社員が販売、管理で20名前後、アルバイトを入れて100人弱の組織の中で、学生アルバイトを除けば、私は下から数えて5番以内の若い年齢。社員の前社長への忠誠心の強さは、裏を返せば私のやり方への反発・不満につながりかねないと懸念した。
とにかく実績を出すこと、結果を見せることで理解してもらうしかない、と意気込んだ。
 

(販売部門責任者のSさん)

今後の再建を進めていく上で、販売部門の責任者Sさんとの信頼関係を構築していくことが必須だった。彼無しで、外部者だけで再建を行うことは不可能だ。彼は日々のオペレーションをすべて把握しており、頼りになる存在だった。彼は、新規出店の提案書と収支計画を2店舗程もって私との打合せに望んできた。小さな会社にも関わらず、きっちりと数字で収支計画をロジックに基づいて算出してきたスキルの高さと、誠実そうな人柄にとても良い印象をもった。私が作成した経営計画書を渡し、 まずはコスト削減によるキャッシュフロー改善が必須だと考えていたので、説明をして納得して貰った。
 
また、Sさんが中心となって 、デベロッパーに対するM&Aに関する事情説明と新規契約更新を取りつけるため、打合せを設定していった。どの店舗も開店から3年以上経っており、前会社とディベロッパーとの関係は良好そうで更新も問題ないと思っていた。
だが、Sさんだけは経験の中から、契約継続・更新の交渉が容易でないことを感じていたようだった。 
 

(ディベロッパーとの交渉)

よりにもよって、限界利益の半分を稼ぐ収益店舗が入っているディベロッパーとの面談当日、商品への異物混入事件が発生した。打ち合わせは、非常に不穏な空気で始まった。ディベロッパーの重役に「いくら新会社の情熱・改善策を説明されても、こういう事態が起きている事実を前には、あなたたちを信頼できない」と言われた。ぐうの根も出なかった。
 
ほかのディベロッパーも、新会社によるM&Aに対する反応は悪いものだった。ディベロッパーはM&Aの話が事前に知らされておらず、この話が事実として決定してから、交渉にきていることに立腹していた。加えて、引き継ぎ先の新会社の社長が若輩で株主がIT会社とVCというのも、デベロッパーの重役達には印象が良くない。
 
それ以上に彼らが腹を立てていたのは、
旧会社が、会社名の変更、株主の変更、などビジネススキームの変更を一切ディベロッパーに知らせず、勝手に行っていたということだった。これらはディベロッパーとの契約違反だ。新会社の私たちにも寝耳に水だった。
 
ディベロッパーからすると、新会社・旧会社というのは関係なかった。
このような契約違反を行っていたのは旧会社だったが、彼らは、このブランドに対して、この案件に対して、明らかな不信感を抱いたのだった。
しかし、デベロッパー側も急に空き店舗を作るわけにはいかない、という事情から短期間での契約延長がなされた。
当初は、十分に延長も視野に入れたうえで、という話だった。胸をなでおろした。
 
(C)2016 daikimatcha
 
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