日本の農業で世界へ~起業の記録~

京都大学農学部卒業、外資戦略コンサル、ITベンチャー役員を経て、製菓会社の社長として経営再建を経験。現在、米国バブソンMBA留学中、2016年6月D-matcha株式会社(https://dmatcha.jp/)を設立。

経営再建⑯ ~裁判出廷(後編)~

弁護士との相談 

2回目の訴訟に際しても、新会社としては、絶対に負けられないし最後まで闘い抜く必要があった。
われわれは、買収時に純資産以上の金額で新会社を買収したのであり、旧会社の債務を負うのであればその分ディスカウントした価額で買収していただろう。我々が支払った買収金額を、正当に債権者間で分けて頂きたい、という想いだった。
絶対勝つため、親会社のI社長と相談して、新たに実績にある弁護士さんに話をして、請け負ってもらうことにした。
裁判を行ううえで、代表取締役社長であった私は被告人当たるので、私自身も法律を理解する必要があったし、我々の法律的根拠をサポートするfactを揃えるのも私の役目だった。
裁判は、事象に対して、拠り所となる法律的根拠を選び、その根拠をfact(契約書など)でサポートする、というロジカルな組み立てが要求される。ある種、戦略コンサルの仕事に似ている部分が多いなとも感じた。弁護士と一緒にロジカルにストーリーを組み立てていくため、弁護士との相性の良さも大事だと感じた。
訴えられているという事実自体は決して喜べる事実では無かったが、幸いにして弁護士さんとの相性は良く、裁判の準備は順調に行うことができた。
 

訴訟の取下げ 

2013年夏頃、東京地方裁判所に出廷した。
裁判所の部屋ごとにその一日の裁判スケジュールが書かれていて、見ることができる。
1つの部屋でも、1日に何件も裁判が行われていた。こんなに裁判があるのかと驚いたものだった。
想像しているよりも機械的に裁判は始まり、裁判官が坦々と仕切っていく。殆ど被告側・原告側の弁護士と裁判官との間でやり取りが進んでいく。
我々が旧会社の経営陣とは一切の関わりがないこと、正当にコンペに参加して、純資産以上の金額で買収を行ったこと、従業員の未払い給与などを引き継いだこと、国税に敷金を差押えられてしまったこと、全てが原告側にとっては初耳のようで、非常に驚いているのが印象的だった。被告側からの事情の説明をうけ、裁判官がこれらを精査して数か月先に改めて裁判を行う、ということになった。30分弱であっという間に終わった。論拠が同じことから、他の原告(債権者)に対しても当該決定事項が裁判所の方から連絡が行く、とのことだった。 
その後、1月程経ち、全債権者から訴訟の取下げ通知が届いた。
事実が伝わり、我々が善意の事業引継者ということが判明した結果、訴訟を起こす理由も勝てる見込みも無いという判断だった。訴訟取り下げに安堵はしたが、旧会社の不誠実な対応のせいで、我々の貴重な時間・資金・精神的労力を使用することになった事実に改めて憤りを覚えた。 
 

誠実であること

この旧会社に関連する裁判を経て私が強く感じたことは、人として誠実であることの重要さだった。
非常に苦しい旧会社の経営状況が、旧会社の代表者、経営者たちの、人としての理性を失わせたのだろうか。
 
会社の経営はつまるところ、個人の人間性に行きつくように感じた。
非常に苦しいとき、どうしようもなくつらいとき、人としての弱さに流れてしまうかどうか。
苦しいときも好調な時も、どんな時も、顧客・従業員・取引先・債権者・社会に対して、誠実に、真摯に向き合わなければならない。人として恥ずべき行為はしてはならないし、人としての誇りやプライドのようなものを捨ててはならないと思う。
それが健全な経営を行っていくために必要な「信用」を築くことにつながるし、それを失ってしまったらそもそも人として幸せな人生は得られないのではないか。
 
今まで生きてきた中で、私は幸いにして誠実な人々に囲まれて暮らしてきたのだと思う。そのため、自分では理解できないような人間性を持つ人々に身近に接する場は無かった。
経営に携わるようになり今回の事件を経て、経営というものの怖さと、人として誠実であることの重要性を意識するようになったのだった。
(C)2016 daikimatcha

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