日本の農業で世界へ~起業の記録~

京都大学農学部卒業、外資戦略コンサル、ITベンチャー役員を経て、製菓会社の社長として経営再建を経験。現在、米国バブソンMBA留学中、2016年6月D-matcha株式会社(https://dmatcha.jp/)を設立。

経営再建⑱ ~工場移転(後編)~

工場移転の方針 

デットラインが決まり、「自社製造」か「OEM製造」かを迫られるなか、私が判断したのは、その両方である。

当該製菓会社の製造ラインは主に2種類あった。

より人手と手間がかかるイースト系の商品Aと、冷凍耐性があり機械での作業がある程度可能な商品Bである。

イースト系の商品Aは自社での製造、商品Bを別会社にOEM製造を依頼。

また、移設する時期を2回に分けることで、買収当初に起きた混乱を少しでも分散する方策をとることにした。さらに、製造部門のKさん、SさんをそれぞれA商品、B商品の長とし、人手を要するA商品の移設時期を後にすることで新規採用の時期に幅を持たせることにした。

A商品は当該ブランドの看板ともいえる商品。私自身が、直接現場に行って管理ができる場所での製造を行うと心に決めていた。 

移設 

B商品のOEM契約

当該ブランドの再建に欠かすことのできないパートナーとの出会いがあった。I社長との繋がりから知り合うことになる、神戸のS社だ。洋菓子業界でも名の知れた会社で、特に製造に強みを持つ。本拠は神戸だが、関東にも広範に店舗を持ち、製造工場も有していた。

元来、信頼できるOEM先を見つけることは大変難しい。まず、新参の会社は、製造依頼を受け付けてもらえないどころか、問い合わせメールなどをしても返信すらないのが常である。レシピや製造工程などに代表されるように、信用商売でもあるので、紹介などが無いとなかなか取引を行うのが難しい。 

I社長のお力もあり、S社の代表者と私自身も良い関係を構築することができていた。そこでB商品の製造ライン移設の相談をした。同じ製菓でも、設備も随分違うので普通ならば絶対に受けてもらえない。

しかし、関東工場の物置となっていた一部屋を開けて頂き、かつ運送費用などの立替なども受けて頂いた。さらに、Sさんと共に働く工場のメンバーを何名かだしてもらい、OEM契約を締結させて頂いた。この時の御恩は忘れられない。この先、私自身もS社の経営のお手伝いをすることになっていく。

B商品のライン移設 

B商品のライン移設をスムーズに行うため、移設日の数週間前から製造ラインが1週間止まったとしても納品が滞ることのないように商品の冷凍ストックの貯めこみを実施し始めた。

ラインの移設は、移動による機械の不調、移設先での電源不具合、製造者たちのスキル不足など、様々なリスクを伴うため、十分なゆとりを持つ必要があることを買収当初、OEM会社が陥っていた混乱を目の当たりにしていたために肌感覚で分かっていた。

移設の1月前からSさん、Kさんともに既存のOEM会社の製造ラインに入って入念な作業確認をするとともに、B商品の移設時にはKさんもフォローに当たれる体制をとっていた。この先何度も助けれれるのだが、Kさんは機械にも強く、自分自身で製造ラインの修理などができるのだ。さらに、機械の販売代理店にも連絡し、移設後、スムーズな稼働ができるようにバックアップをしてもらう耐性をとった。

こうした入念な準備と、Sさんを始めとする社員の頑張りで、大きなトラブルが起こること無く、弊社の製造スタッフであるSさんと、強い信頼関係のあるS社のスタッフによる製造ラインがここに生まれたのである。

新設ラインで出来立ての当該ブランドの商品を食べるのは格別であった。

依然として厳しい状況ではあったが、光が見えてきた瞬間であった。 

 

(C)2016 daikimatcha

 

 

 

 

 

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