日本の農業で世界へ~起業の記録~

京都大学農学部卒業、外資戦略コンサル、ITベンチャー役員を経て、製菓会社の社長として経営再建を経験。現在、米国バブソンMBA留学中、2016年6月D-matcha株式会社(https://dmatcha.jp/)を設立。

経営再建⑭ ~販売施策の失敗(後編)~

売上施策の結果 

商品サイズ・価格の変更によって、お客様が挙げていた不満を2つも解消できた、と私は思っていた。
しかし、商品のサイズ変更は大失敗だった。
理由は2つ。第一に、サイズが小さくなり、25%安くなったとしても競合他社に比べれば依然として割高であり、新たな顧客層を獲得できるほど魅力がなかったこと。
第二に、今までいたコアなファン層を失ってしまったことだ。サイズを小さくしたことで以前よりも食感が悪くなってしまい、コアなファンを失望させてしまった。試食をした出来たての商品ではなかなか気づきにくかったが、従前の大きいサイズによりも乾燥し易くなっており、時間が経つと食感が固くなりやすくなっていた。加えて、従来の大きさにバリューを感じていたお客様がいた、ということを完全に見失っていた。
1口サイズの新商品投入による売上増の効果はそこそこあったものの、商品のサイズダウンと商品単価を下げたことが悪い方向へと響き、さらに売上は下降を辿っていく。
 

誰の声を聴くべきか

商品サイズと価格変更時の学びは大変大きかった。
お客様の声を聞くことは経営に欠かせない作業だが、「誰の声を聞くべきか」という視点が重要だ。
様々な顧客層のお客様がいらっしゃる中で、どういったお客様が、自分のブランドの支持者、適切なターゲット層となりうるかを見極める必要がある。
その上で、お客様から上がってくるご意見が、ターゲット層のお客様のものなのかどうかを見極め、取捨選択を行わなければならない。簡単なようで、顧客に対する理解と洞察力が求められる思った以上に難しい作業だ。
特にニッチなブランドには、コアなファンがついており、そうしたファンが極めて大事だ。コアファンで無い顧客層をやみくもに狙いにいこうとすると、結果として売上の基盤を形成するコアファンの求める価値を損なってしまい、ブランドとして致命的な結果をもたらすことがある。
 

出店場所による施策の制限 

当時、出店していた店舗の全てが一様に低迷していたわけでは無く、中には比較的持ちこたえている店もあった。それは、カフェ店舗だった。
店舗の種類は、大きく分けて、物販店舗とカフェ(軽飲食)店舗の2種類にわけられる。店舗設備に応じて、保健所から物販かカフェのどちらの許可を得られるかが決まる。
カフェ店舗の場合、飲み物を取り扱うことができるため、菓子の売上が落ち込む夏の暑い時期に、飲料売上が売上を下支えしてくれていた。夏の需要を喚起できる新規ドリンクも導入することで店舗の見た目の涼しさも演出することができた。
一方で、物件によってはどのように追加投資をしても、物販店舗以外の許可が物理的に得られない立地もあり、その店舗においてはそういった有効な策を講じることはできなかった。落ちていく売上に指をくわえてまつことしかできない。
出店時に、「通行量」以外に、「販売できる商品・サービスの種類・制約」という重要な基準を見落としてしまっていた。講じることができる打ち手の数・種類が少なければ、経営改善の余地がなくなってしまう。
 

顧客層のミスマッチ 

10店舗弱新規出店した中で、上手くいったのは「比較的通行量があり」「メイン顧客の女性20代~40代が多く」「比較的所得の高いエリアor比較的所得の高い人が一定以上通るエリア」だった。
ショッピングセンターに出店したケースでは、顧客層の求める価格帯と商品ブランドは異なり、売上は芳しくなかった。
また、競合がいない場所に展開しようと、オフィスビルに出店し、コーヒー・菓子のテイクアウトを狙った店舗もあった。しかし、そもそもオフィスにブランド菓子の需要はなかったし、コーヒーで推すには他に競合もいる。ここも厳しい闘いとなった。結果、3店舗はすぐに退店をすることになる。 
 
国税差押えによって全店を失った後、怒涛の出店で売上規模を一時的に保ったものの、根本的なリピート率の低さが顕在化し、売上は低迷した。さらにサイズダウンによりコアファンを失い、単価が低くなったことで売上はさらに低迷するという悲しい結果となった。こうした、経営の迷走を見て、この時期に自ら去っていった社員も何名かいた。何をしてもうまくいかない。本当に苦しい時期だった。 
 
そんな時、訴訟通知を再度受け取ることになる。相手は、旧会社の債権者だった。
(C)2016 daikimatcha

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