日本の農業で世界へ~起業の記録~

京都大学農学部卒業、外資戦略コンサル、ITベンチャー役員を経て、製菓会社の社長として経営再建を経験。現在、米国バブソンMBA留学中、2016年6月D-matcha株式会社(https://dmatcha.jp/)を設立。

MBA留学② ~バブソンMBAの特徴(後編)~

起業学

バブソンMBAでは、起業という分野に関する膨大なデータを持って体系的に学術的かつ実践的に学ぶ。
起業を学ぶとはどういうことか?と正直ここに来る前まではピンと来なかったが、複数事例を学ぶうちにスタートアップならではの共通する失敗事項、それに対するアプローチがあることが見えてくる。
 

Quick and Dirty

バブソンMBAの中で特に、印象的だったもののひとつは「Quick and Dirty」という考え方だ。具体的にいうと、ニーズが無い商品/サービスは無価値という思想のもと、早期のプロトタイプ及び顧客フィードバックの場を強制される。日本人的感覚でいえば、やる前にもっと議論してから、練ってから…となりがちだが、ここでは早期にPDCAを回すことが求められる。
確かに実感して思ったが、気軽にできるし、早いし、効果は大きい。例えば、抹茶を海外の人向けにどう提供するかと考えていた時に、自分の仮説とグル―プの仮説を基に、構内で150人弱に1時間で実験をしたところ、国籍別に顕著な傾向が見てとれ、マンゴー抹茶やココナッツ抹茶等、日本人からは想像できない商品のウケが良かったことに衝撃をうけた。
この時、授業で紹介された失敗例は、卓越したエンジニアが、技術をメインに全財産を賭けて製品を創り上げたが、結局ニーズが無く、会社も潰れてしまった例だった。一見すると当然と思うかもしれないが、自分で実践してみるとよく理解できる。
 

組織形成

組織形成では、企業の成長フェーズに応じて求められるリーダーシップのスタイルや陥り易い間違いなどをケースを通じて学ぶ。
起業家としてビジョンの設定や戦略策定能力はもちろん、経営者として常に客観性を保ちながら組織を成長させていくためのエッセンスを学んでいく。
例えば、数多くの起業家が創業メンバーとして、自分の友人や身内など、客観性を保ちにくい環境のなかでビジネスを始めていく。その中で組織を成長させるには、自分より経験豊富で客観的な意見を提供するアドバイザーが重要だ。概して、起業家は良い意味でも悪い意味でも癖のある人が多いので、特に組織が大きくなっていく過程で、客観的にstopをかけることができるアドバイザーが、多くの成功したベンチャーで必須の働きをしている。また、組織の成長に伴って起業家の役割は変遷する。その過程を6段階に整理して、それぞれの段階で必要な組織のあり方や人材、さらには起業家の関わり方が体系的に整理されている。例えば、起業がサバイバル期(一番最初。とにかく損益分岐を超えないといけない時期)を超えると、成長に備えて起業家の主な仕事は資金調達に変わっていく等。
 

資金調達

資金調達では、資金繰りの交渉や(掛け金など)、VC投資以外のビジネスパートナーとの戦略的提携など、様々なオプションについて具体例やケースを基に起業家の立場で議論していく。
VC投資は注目されやすいが、アメリカでの実際の資金調達のうちVCからは10%以下だ。従来の銀行からの融資、FIn techを始めとした最先端の資金調達方法、さらには取引先(例えば卸業者、小売業者や、生産者と小売業者など)間での調達によるメリットを議論する。
 
業界経験を豊富に持つ投資家が、お金だけでなく事業に対するアドバイスや人事に関するアドバイスをしていく事例もいくつか取り上げられた。実際に投資を受けたイスラエルの起業家に話を聞くことができたが、投資家、起業家双放が互いの価値観やバリューを認識しており、互いにリスペクトしている点がとても新鮮だった。
 
ほかにも、「資金調達はプレゼン力だ」と豪語する教授の元、銀行の融資責任者等に正確な質問をぶつける(外れたことを言うと普通に流される)のも良い訓練となる。
Fintech については、peer to peer lending を始めとした、新たな資金調達方法についても起業家は常に耳を傾けておく必要がある。
現在開発中のサービスの中には、企業がPlat form上で融資希望を出すと、世界中の銀行が当該案件を審査して融資のofferを出すといった仕組みまで検討されているらしい。
 
 

バブソンMBAの授業以外における支援

授業以外では、Blank Centerという起業家支援の組織が存在する。ビジネスプランを応募すると、ビジネスの具体性に基づいて、3段階に仕分けられそれぞれにカウンセラーが付く。カウンセラーだけでなく、弁護士や会計士など起業家に必要なリソースを自由に活用できる。さらに、ロゴデザインや創業者間の株式の分割に関する授業など、起業家ならではのニッチな授業も無料で提供している。
年に2回、Rocket Pitchという3分間のビジネスアイデアをプレゼンするコンテストがあり、そこでメンバーを募ったり、投資家を募ったりする機会がある。私も昨年参加した。
 
さらに、ビジネス分野別にチームが活動している。私の場合「食」なのでFood Solという組織があり、毎週フードビジネスの起業家を学校に呼んで座談会を開設したり、ボストン市内で行われるフードビジネスに関するイベントにバブソンMBAから派遣されることもある。私も、food universityというフードビジネスの起業家、エンジェル投資家、大手小売経営者など、関連するビジネスマンが集まるイベントに参加し、そこでプロトタイプを持っていき、貴重なフィードバックや出会いを頂いた。

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