日本の農業で世界へ~起業の記録~

京都大学農学部卒業、外資戦略コンサル、ITベンチャー役員を経て、製菓会社の社長として経営再建を経験。現在、米国バブソンMBA留学中、2016年6月D-matcha株式会社(https://dmatcha.jp/)を設立。

経営再建⑥ ~コスト削減(後編)~

経営再建の初期にまず取り掛かったのは、細かい費用を含めてコスト削減をしっかりと行い、損益分岐の引き下げを行うことだった。
物流費以外にも、店舗関連費用(販売人件費、製品発注コントロール、包材費)、本部経費(銀行手数料、ITシステム変更)など、様々なコストを見直した。
 
店舗関連費用は、各店長達の意識改革と管理手法をどのように変えていくか、ということが最も大きなポイントだった。
一方、本部経費は、既存の仕組みの組み換えと細かい削減の積み重ねである。「本業で本部経費を賄うのに何個の菓子を売らないといけないか?」と考えると、できるだけスリムにしたかった。絞っても絞っても出てくる雑巾の水のように、コスト削減はできるものだと感じた。その面倒な細かい積み上げをやるかどうかは、トップの意識次第だ。 
 

店舗関連費用

今後の売上向上施策を社員一丸となってやり遂げるために、モチベーション低下への怖れから、給与削減をすることは控えた。
その代わり、店長の意識を売上予算から利益予算へと変えることで、各自の自主性を残しつつ、コストへの意識を持たせていこうと考えた。

管理指標の変更、意識改革~売上から利益予算へ~

当時も販売責任者の管理は行われていたし、システムで詳細な売上データを管理することはできていたが、全部「売上」に関してだけだった。予算を店舗の利益ベースで設定し、売上以外の管理指標を設定しようとした。
店長の裁量は、商品発注、包材発注、シフト作成、販売活動(実際の販売、ディスプレイなど)が主な範囲だった。そこで、売上以外に、ロス率(商品発注に対する売れ残り数)、人件費を特に大きなベンチマークとして設定し、各店長に店舗PL管理を任せる仕組みを新たに設定した。
モチベーション向上と意識付けのため、人事評価の仕組みの中に、この新規管理手法に対する目標達成を評価の一部とすること、目標達成の場合インセンティブを支払うことを新たに導入した。毎週会議を実施し、新しい考え方の定着に努めた。

発注コントロール

中でも、特に損益へのインパクトが大きかったのは発注コントロールだった。
当社製品は当日消費製品(以後、生菓子と記載)であるため、売れ残り=ロス=原価増大、となる一方、発注個数が足りなければ販売機会損失となる。
少ないところでは5%ほどの製品ロスに対して、多い店だと15~20%とかなり店舗間でバラつきが存在していた。売上拡大という会社からの要求に応じ、そこで成果を出していた店長ほど、この新しいやり方に違和感があったようだった。最初はなかなか理解してもらえず、製品を余らした場合と追加で販売した場合の利益を、シンプルに図指して説明を繰り返した。
 

シフトの見直し

販売人件費については、シフトの見直しを行った。過去データから、平日/休日、時間帯、月別で客数の傾向はある程度決まっていたので、時間帯客数に対して○○人の販売員を張るというルールを設定し、販売トップ責任者から、目安のシフトを各店長に送付することで削減を行った。過去のデータがしっかりと管理されていたこと、販売部門責任者が彼自身の経験に基づいて、店長達に納得感のあるシフトを提案できたことから、想定以上にこの改革はスムーズに進んだ。 

包材費

包材費については、包材の種類がとにかく多かった。
現場の意見を聞くと、確かにあった方がいいが本当に必要か、と感じられる包材資材が多数存在した。シンプルに私が行ったのは、管理点数の削減だ。通常包材には、「(店舗ロゴ等が印刷された)プライベート品」「既製品」とがあり、当然だが、プライベート品は最低発注量がありかつ倉庫での保管期限が設定されている。また、発注ロットが上がると単価が劇的に変わるのも大きな特徴だった。そのため、包材の種類を減らし、プライベート品の発注ロットを上げることで単価を下げ、管理をシンプルにすることで、倉庫の保管期限リスクや不動在庫リスクの低減を行った。 
 

本部経費

一番大きかったのは本部人件費の削減だった。親会社であるIT会社の事務所の一部を本社として間借りすることで賃料を下げ、経理をIT会社の力を借りながらスリム化し、今まで複数役員で行っていた業務(戦略立案、資金繰り管理など)を私が行うことで旧会社の際の1/3以下に抑えた。
システムは、前会社の社長の付き合いのある会社に特注システムを依頼していたため、これを廃棄して、既存のASP(ある程度標準化されたサービス)を使用することで1/5以下にコストを削減した。様々なシステムが絡み合って複雑だったが、ここは親会社のIT会社スタッフに協力して貰い、ASPベースのシンプルなものへと変更した。
 
意外に大きかったのが銀行手数料だ。
当時、100人近くのスタッフが別々の銀行を使用しており、それぞれに給与振込をしていたため、給与振込手数料がかなりの額になっていた。そこで、ある銀行の支店へ統一し、それが嫌なスタッフは本社受取とすることで、給与振り込みにかかる手数料は0になった。また、他社への振込はネット銀行から行うことで振込手数料が1回あたり都市銀行と比較すると半分程度まで落ち、ここでも削減を果たすことができた。 
 
(C)2016 daikimatcha
 
 
 
(C) 2016 daikimatcha