日本の農業で世界へ~起業の記録~

京都大学農学部卒業、外資戦略コンサル、ITベンチャー役員を経て、製菓会社の社長として経営再建を経験。現在、米国バブソンMBA留学中、2016年6月D-matcha株式会社(https://dmatcha.jp/)を設立。

経営再建⑧ ~既存店売上施策(後編)~

日本とNYの違い

旧会社で冷え切っていたNYとの関係だったが、あのNYで食べた味を再現したいと想いもあり、頻繁に私は連絡を取っていた。NYと日本の違いを見てみると、製造面では製造の時間・材料の問題、販売面では消費者の食習慣の違い・商品種類などがあった。
 
特に問題だったのが製造面だ。NYでは24時間製造を行っているため、商品を製造してから店舗に並ぶ時間、売りきる時間が半日以内であった。対して日本では、当時、前日製造翌日配送を行っていたため、店舗に並ぶのに製造から時間が経ってしまっている状況だった。生菓子なので鮮度は極めて重要な要素であったため、OEM会社に対して深夜製造の交渉を何回か行ったが、OEM会社としては弊社の製造以外も行っているわけで、社員の希望などから考えてみても、深夜製造への移行交渉は一歩も前に進まなかった。
 
また、材料面について、アメリカで手に入る材料と日本で手に入る材料の違いがあった。小麦の種類等はある程度仕方ないのだが、最も大きかったのはバターである。
当時(今もだが)、世界では安くて簡単に何処でも手に入るバターだが、日本では酪農保護という名の元、バターの輸入制限や国内生産の不足から「バターが買えない」という状況が頻繁に起きていた。
バターは商品の「コク」を出す上で必須な材料であるが、買えない、という状況が続いたため、日本側がレシピをバターを使用しないものへと変更していたのだった。さらにNYは年々進化をしていて製造方法や材料などのアップグレードを行っていたが、日本はかなり昔のまま止まっている、というのも大きな差だった。そうした現状をOEM会社と話たりもしたが、材料コストの向上等が理由で、製造方法を変えることはできなかった。
 
また、販売面での違いは、アメリカと日本では消費者の習慣の違いがある。アメリカでは菓子を「自分買い」するのが多いのに対し、日本は菓子を「ギフト」として購入するケースが多い。NYと会話しても、この点は一向に理解されず「NYと同じことをすれば絶対売上は上がるから、そうしろ」の一点張りだった。
NYのオーナーは自ら職人であり、商品の拘り、ブランドへの拘り、経営者としての人格(これは後に仲良くなってから感じたことだが)も素晴らしい経営者だ。しかし、今となっても、各拠点ごとの売上施策については意見が異なる。やはりマーケットごとにお客様は異なり、どれだけ実績があって優秀でも、そこに住んでない人間がお客様の細かいニーズまで理解することは難しいのだと思う。ある程度の部分は、各拠点に自由度を持たせて「考えさせて判断させる」という経営にしていかないとお客様の細かなニーズの変化に対応することはできない。任せるところは任せ、握るところは握る、そのバランスが重要だ。NYとのFC契約時に、日本での経営の自由度を認めてもらう一文を、強く交渉して盛り込んておいて良かった、改めてと思った。
 

商品カテゴリーの多さ

日本とNYの対比や売上のデータを見て気になったのが、日本での商品カテゴリーの多さである。NYは、生菓子が殆どの売上割合を占めるのに対し、日本は焼菓子など売上の構成比率はロングテールになっていた。この時私は、「効率」を重視した判断を取り、売上比率の低い焼き菓子の製造をどんどん止めていった。その方が、より主力である生菓子にお客様の目もいくし、製造側も販売側も生菓子に集中できるので効率が上がるだろう、と考えてたからだ。しかし、これは間違いだった。
いろいろな失敗のあとだから言えることだが、製菓は嗜好品なので、「お客様に如何に来店のきっかけを作るか」が重要だ。売上比率の低い商品にも実はコアなファンがいて、その方がついでに生菓子を勝っていたりする。例えば、お土産用に焼き菓子3箱と生菓子4個を家族用に、など。特に日持ち商品は、ターミナル駅において他の競合が余りいない、という状況でもあったため、売上比率と製造の効率性だけで商品を止めてしまったのは大きな間違いだった。その後、現場での経験を経てそれに気づいたとき、比較的売上比率の高かった商品については直ぐに復活させた。
 
その商品自体の売上自体は小さくとも、その商品がきっかけとなり、ほかの商品のついで買い、まとめ買いにつながっていることがある。データを表面的に見てジャッジしてはならない。視察だけでなく、定期的に店舗に入るなど現場でのお客様の行動を具に観察し、データの裏にある現象を理解しないと、正しい判断は難しい。
(C)2016 daikimatcha
 
 
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経営再建⑦ ~既存店売上施策(前編)~

コスト削減は、即効性が高く成果がすぐ明らかになったのに対して、既存店売上の向上は直ぐにはうまくいかなかった。
最初に実施した売上向施策は失敗ばかりだが、その理由の振り返りも兼ねて記載したいと思う。
 

新規商品開発

当時商品開発は、販売の店舗責任者が発案→OEM会社と折衝→試作作成→最終決定というプロセスで行っていた。ほぼ毎月新商品を発売し、そのプロモーションを行っていたので、常に新規商品のパイプラインが走っているようなイメージだ。
製菓は嗜好品なので目新しさが無いと直ぐに飽きられてしまう。商品開発は大変重要なプロセスだった。過去の販売データを見ると、主要カテゴリーの商品の売上は各店で年々下がっており、その主な原因が過去の商品の焼き増しの多さにあるのではないかと考えた。せっかくデータはとっていたものの、データをや他社の研究、NYの商品など様々な情報を基に商品が起案されているわけではなかった。そこで、新たに特徴を加えるべく、親会社であるIT会社の製菓部門に協力して貰いアイデアだしを実施し、今までにない新鮮な商品を提供していくことにした。
実際、もともとのブランドイメージから少し離れる商品もあったものの、新たな商品が完成した。売上自体は悪くは無かったが、販売現場からの反発は凄まじかった。今でも忘れないが、ある社員から、前オーナー(創業者)がいかにしてNYからブランドを持ってきたか、如何にこのブランドの価値を私が理解してないか、などの内容が書かれた長文の文章が届いた。売上施策は本部が考えるものではなく、各店の特徴を一番良く知っている店舗責任者を中心に組むべきだという主張であった。
というのも、同じ東京圏内においても、売れる時間帯、客単価、そして商品群など店舗によってその特徴が大きく異なる。例えば、ターミナル駅であれば、お土産需要として日持ち商品(焼菓子)の売上割合が大きくなるし、ベッドタウンに近い店舗であれば生菓子の割合が大きくなる。
社員の急激な変化への反発、権限を奪われることへの不満、などの表れでもあった。私も人間なので、こうした反発を受けて穏やかな気分では無かったが、 本部がすべてマネージするには確かに限界があるし、本部が決定するのではなく自発的な考え方を持つ社員を中期的に育てなければ、という想いもあったので、この主張を受け入れることにした。また、この時点では業績自体が回復していたため、社員の意識改革に時間をかける余裕がまだあった。親会社から迎えた開発者には再度離れてもらい、従来のやり方に戻すことにした。
 

OEM会社との折衝 

これは社内の販売部門、製造部門間で起こることだが、販売部門と製造部門は揉めることが多い。というのも、販売は「これが欲しい。なんでこんな品質の悪い商品を作るんだ。」という意見あり、製造は「無茶ばかり言って。そんなことできるか」といった具合である。製造販売の現場が近くにあって互いの状況が良く分かっている場合は、かける言葉等が変わってくるものだが、会社が異なると一層その溝は深くなる。
OEMの製造会社は、スタート当初よりは随分と落ちついてはきたものの、依然として商品クオリティのバラツキや、開発時点での折衝が上手くいかない等、問題は引きつづき起きていた。とはいえ、Q1を通してOEM側の収益としても当初想定していたよりは良かったようで、私とOEM会社の社長との関係は良好だった。私は製造部分の状況をもっと把握したかったし、販売側の意図も製造に伝えたかったという想いがあり、商品開発を強化するために親会社の菓子部門から人(Kさん)を融通してもらい、商品の品質を安定させるために自社で雇用していた製造スタッフ(Sさん)の計2名を、OEMの工場へ常駐させてもらうことにした。
2人にとっては精神的にかなり過酷な環境であったとは思う。しかし、製造に一切関わらない状況は今後の経営で非常に不安であったし、既存店売上向上のためには商品開発が必須であったことから、こうした判断をした。この効果はてき面で、商品開発については今まで「そんなの出来ない」で終わっていたことが、Kさんがレシピの提案や製造方法の提案を行うことが出来たり、先方の出来ない理由がより明確になったり等、コミュニケーションの円滑化に大きなプラスがあった。また、Sさんのおかげで、検品プロセスの再構築や衛生管理面の向上などが、実現できた。ただ、当然なことではあるが、先方の社員や社長含め、当社の人間が工場に常にいる状況は芳しくなく、しばしば人間関係でのトラブルは起きた。
 
コスト削減と違って、売上は簡単には上がらない。売上向上のために何が一番重要か、なぜ既存店売上が下がっているか、はっきりとした答えをまだまだ見つけられずにいた。
(C)2016 daikimatcha
 

MBA留学③ ~ITビジネス~

アメリカ留学で得た重要な収穫のひとつは、アメリカのビジネス・サービス・市場について、生活の中で触れることができることだ。
次々とITビジネスが新たに生まれ、それが瞬く間にアメリカ以外の国へと進出してGlobal Standardとなっていく。
有名すぎる例だが、改めてUberとairBnBについて紹介するとともに、アメリカ発のサービスが成長する理由について触れたい。

Uber

個人が所有している車をシェアするという発想の元、乗客が気軽にハイヤーを利用するためのPlat formを提供しているのがUberである。
アメリカに来る前は、日本進出するということで、名前だけ知っている程度だった。現在ではtaxi以上に良く使用している。というか、taxiを全く使用する気にならない。このサービスに押されてアメリカではタクシー会社が破産に追い込まれている。
Uberの利用方法は非常にシンプルだ。利用者は、自分が乗りたい場所、降りたい場所をGoogle mapと連携したアプリで指定すればよいだけで利便性に優れている。予めクレジットカードを登録しておくので、降車時の支払も必要ないし、チップもいらない。自分のドライバーがどこにいて、何分で来るのか、地図上でわかる。boston郊外に住んでいるが、それでも5分~10分くらいで迎えに来てくれる。
 
Uberの何よりの肝はratingだ。 ドライバーと乗客が互いに相手を5点満点で評価する。
4.5点以下になったドライバーは一定期間にサービスに参加できない。逆に素行の悪い乗客はドライバーから拒否されるのでサービスを使用できない。シンプルだが、それが故に双方ちゃんとする。
一度、Uberを予約したにもかかわらずドライバーが迎えに来ず、しかもドライバーから架空の請求が送られてきたことがあった。Uberにクレームを言うと、すぐにシステム上で返金がなされ、丁重なお詫びの連絡が来た。対応の早さと丁寧さに舌を巻いた。
 
Uberの車は綺麗だ(ここではToyota Camry率が異様に高い、中にはベンツ、レクサスのことも)。車内は臭いに気を配り芳香剤が。中には、サービスとしてペットボトルの水をタダでくれたりする場合すらある。評価されるという仕組みが、個々のドライバーの工夫を生む。
フレキシブルな働き方ができるとあって、ドライバーの数も増えているようだ。ここ数か月でまだドライバーを始めたばかり(数か月、数週間)という人が何回かいた。フルタイムでドライバーとして働いている人もいれば、リタイアして時間が有り余っているから始めた、子育ての空いている時間だけ働いている、という人もいる。
 
Uberがアメリカだけでなく世界中で利用されている。特に南米ではStandardになっているようで、コロンビアの友人は"Uber is always better than taxi"といっていた。安全に旅行したいなら、Uberを使用した方が、良いと。
もちろん、Uberも、 GMが出資し車両を提供することとなったLyftや東南アジアでは、シンガポール発でSoftbankが出資するGrabなどと競争しているが。
 
日本では規制やらがあるので、羽田成田の空港とごく一部の都心だけだが、、日本のニュース記事を見る限りでは、安全面からUberに批判的な意見が多数あるという。もちろん、ドライバーの素性、保険への加入など、 Uberを利用することのリスクはゼロではない。しかし、それは何のサービスでも同じだ。リスクに見合う、もしくはそれ以上のリターンがあるかどうか、を適切に評価する必要があるのではないか。 
 

airbnb 

airbnbは、Uberの家バージョン。自宅の空いている部屋を人に貸して有効利用したい貸し手と、宿泊者をつなぐサービスだ。
私もMBA2年目は、ボストン市内の部屋をairbnbを使用して3カ月間予約してある。安いし、家具など用意しなくて良いので留学生・ビジネスマンにとって余計なイニシャルコストがかからずに持ってこいである。
 
こちらも同じくratingが肝で、旅行者側もホスト側も双方が互いにratingし合う。
宿泊ということもあって互いの相性がより重要となってくる。ホスト側はパスポート等の身分確認も行うし、プロフィールを見て気が進まなければ、宿泊依頼を拒否することができる。
事前にキッチンの使用ルールなど細かいことをメールで確認できるし、現地への訪問・下見もできるので、利用者の希望を確認し易い配慮がなされている。
 
日本でも、急激な外国人旅行客の増加からairbnbがニュースなどでも最近良く取り上げられている。
日本の場合、旅館や民宿を保護するという名目のもと、6日以上でないとairbnbが使用できない、というルールになっているのは驚きだ。確かに近隣住民からの苦情等考慮しなければならない点も多いが、政府が訪日観光客増加に力を入れ、物理的に宿泊施設を急激に増やすことができない以上、民泊ビジネスは慎重な法整備と共にますます広まっていくことになるだろう。
 

アメリカ発のサービスが広まる理由

Uberもairbnbも設立後、まだ大した期間もたっていないが、既に世界中で使用されるplat formとなっている。その理由はどこにあるのか。
 
まず第一に、アメリカ自体が人種・文化が入り混じるグローバルな環境なので、そこで生まれて・揉まれる中で、世界標準にできるサービスが最初の時点からできる。しかも、アメリカ自体が世界一の巨大な市場だ。日本のようにまず、サービスを日本というそこそこ大きい独自市場の中で創り上げ、さあ、海外だ、とった速度とは比べ物にならない。
 
アメリカは多数の優秀な移民が集まる人種のるつぼだ。シリコンバレーに集まる優秀な資金に加えて、優秀な人材という有機的なリソースも相まって、サービスやビジネス基盤に磨きがかかる。ある程度成功が見えると、様々な投資家がお金を入れ、時に他のベンチャーと協働しながら、一気に広がっていく。
 
それに加えて、アメリカは日本と比較して、州政府の力が強い。そのため、法規制においても州ごとにかなり異なる(例えば大麻OKの州があったりするように)。
アメリカ全体で法整備のコンセンサスを取ると非常に時間がかかるが、アメリカの場合、一部の柔軟な州で法規制をクリアし、その州内でtry and errorを繰り返すことで、より現実的なサービスの改善や法整備の経験値を培っていくことができる。日本のように、小さなリスクすらしっかり懸念しながら、、という手法では到底速度が追いつかない。
 
ITサービスの世界では、アメリカは本当に強い。こうしたアメリカの強みを知るほど、日本人として彼らに勝てる部分は何処か、という視点で物事を考えるようになった。
彼らの生みだす素晴らしい仕組みを利用しながら、食や観光サービスといった日本人としての価値(正確さ、緻密さ・繊細さ、サービスレベル、歴史/文化)で世界と闘っていきたいと考えている。 

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経営再建⑥ ~コスト削減(後編)~

経営再建の初期にまず取り掛かったのは、細かい費用を含めてコスト削減をしっかりと行い、損益分岐の引き下げを行うことだった。
物流費以外にも、店舗関連費用(販売人件費、製品発注コントロール、包材費)、本部経費(銀行手数料、ITシステム変更)など、様々なコストを見直した。
 
店舗関連費用は、各店長達の意識改革と管理手法をどのように変えていくか、ということが最も大きなポイントだった。
一方、本部経費は、既存の仕組みの組み換えと細かい削減の積み重ねである。「本業で本部経費を賄うのに何個の菓子を売らないといけないか?」と考えると、できるだけスリムにしたかった。絞っても絞っても出てくる雑巾の水のように、コスト削減はできるものだと感じた。その面倒な細かい積み上げをやるかどうかは、トップの意識次第だ。 
 

店舗関連費用

今後の売上向上施策を社員一丸となってやり遂げるために、モチベーション低下への怖れから、給与削減をすることは控えた。
その代わり、店長の意識を売上予算から利益予算へと変えることで、各自の自主性を残しつつ、コストへの意識を持たせていこうと考えた。

管理指標の変更、意識改革~売上から利益予算へ~

当時も販売責任者の管理は行われていたし、システムで詳細な売上データを管理することはできていたが、全部「売上」に関してだけだった。予算を店舗の利益ベースで設定し、売上以外の管理指標を設定しようとした。
店長の裁量は、商品発注、包材発注、シフト作成、販売活動(実際の販売、ディスプレイなど)が主な範囲だった。そこで、売上以外に、ロス率(商品発注に対する売れ残り数)、人件費を特に大きなベンチマークとして設定し、各店長に店舗PL管理を任せる仕組みを新たに設定した。
モチベーション向上と意識付けのため、人事評価の仕組みの中に、この新規管理手法に対する目標達成を評価の一部とすること、目標達成の場合インセンティブを支払うことを新たに導入した。毎週会議を実施し、新しい考え方の定着に努めた。

発注コントロール

中でも、特に損益へのインパクトが大きかったのは発注コントロールだった。
当社製品は当日消費製品(以後、生菓子と記載)であるため、売れ残り=ロス=原価増大、となる一方、発注個数が足りなければ販売機会損失となる。
少ないところでは5%ほどの製品ロスに対して、多い店だと15~20%とかなり店舗間でバラつきが存在していた。売上拡大という会社からの要求に応じ、そこで成果を出していた店長ほど、この新しいやり方に違和感があったようだった。最初はなかなか理解してもらえず、製品を余らした場合と追加で販売した場合の利益を、シンプルに図指して説明を繰り返した。
 

シフトの見直し

販売人件費については、シフトの見直しを行った。過去データから、平日/休日、時間帯、月別で客数の傾向はある程度決まっていたので、時間帯客数に対して○○人の販売員を張るというルールを設定し、販売トップ責任者から、目安のシフトを各店長に送付することで削減を行った。過去のデータがしっかりと管理されていたこと、販売部門責任者が彼自身の経験に基づいて、店長達に納得感のあるシフトを提案できたことから、想定以上にこの改革はスムーズに進んだ。 

包材費

包材費については、包材の種類がとにかく多かった。
現場の意見を聞くと、確かにあった方がいいが本当に必要か、と感じられる包材資材が多数存在した。シンプルに私が行ったのは、管理点数の削減だ。通常包材には、「(店舗ロゴ等が印刷された)プライベート品」「既製品」とがあり、当然だが、プライベート品は最低発注量がありかつ倉庫での保管期限が設定されている。また、発注ロットが上がると単価が劇的に変わるのも大きな特徴だった。そのため、包材の種類を減らし、プライベート品の発注ロットを上げることで単価を下げ、管理をシンプルにすることで、倉庫の保管期限リスクや不動在庫リスクの低減を行った。 
 

本部経費

一番大きかったのは本部人件費の削減だった。親会社であるIT会社の事務所の一部を本社として間借りすることで賃料を下げ、経理をIT会社の力を借りながらスリム化し、今まで複数役員で行っていた業務(戦略立案、資金繰り管理など)を私が行うことで旧会社の際の1/3以下に抑えた。
システムは、前会社の社長の付き合いのある会社に特注システムを依頼していたため、これを廃棄して、既存のASP(ある程度標準化されたサービス)を使用することで1/5以下にコストを削減した。様々なシステムが絡み合って複雑だったが、ここは親会社のIT会社スタッフに協力して貰い、ASPベースのシンプルなものへと変更した。
 
意外に大きかったのが銀行手数料だ。
当時、100人近くのスタッフが別々の銀行を使用しており、それぞれに給与振込をしていたため、給与振込手数料がかなりの額になっていた。そこで、ある銀行の支店へ統一し、それが嫌なスタッフは本社受取とすることで、給与振り込みにかかる手数料は0になった。また、他社への振込はネット銀行から行うことで振込手数料が1回あたり都市銀行と比較すると半分程度まで落ち、ここでも削減を果たすことができた。 
 
(C)2016 daikimatcha
 
 
 

経営再建⑤ ~コスト削減(前編)~

最初の3か月は想定どおり計画が進み、1Qは黒字で終えることができた。旧会社の前期業績と比べると驚くほどのV字回復だった。
その後、予想だにしない急展開と業績の急落下を迎えることは先に記載しておく。
今回から数回は、コスト削減など想定どおりうまくいった経営再建の施策を記載する。 

物流費の削減

経営計画のなかのコスト削減項目のうち、物流費削減は重要な柱のひとつだった。
物流費が売上高比率の10%以上と高止まりしていた。

当然だがコスト削減において「値下げしてくださいよ」という短絡的な交渉で値段など下がるわけもない。
相手の業界の根付けの仕方や収益構造をある程度理解したうえで、弊社も相手も得をするような枠組みを考え、提案しながら実現化することが必須だということだ。 
そのためには、取引先のビジネスの仕組みを勉強し理解したうえで、既存の取引のやり方に対して疑問を抱く姿勢が必要となる。

商品運搬用のラックを変更

当該製菓会社の場合、物流費用の高さの原因は、トラック単価の高さ、トラックの稼働率の低さにあった。
トラックの値段は、たいていサイズと機能で決められており、トラックの種類で大きく値段が異なる。
当時、製菓会社では、4tパワーリフト付きトラックという単価の高いトラックを2台活用して納品を行っていた。
当該製菓会社は、製品をトレーにの載せ、1.5m~2m程ある鉄製のラックにトレーを納品し、ラックを各店に配送、各店の空トレーを載せたラックと交換して工場へ、といった物流の流れを取っており、
そのために大型でパワーリフト付きのトラックが必要だった。

私は「そもそもなんでこのラックが必要なのか」とこのラック納品に大きな疑問を持った。既存のものごとに疑問を問いかけるのは、コンサル時代に培われた癖だと思う。
ラック納品ではなく、他の菓子屋やパン屋のように番重(菓子を入れる箱)での納品ができればトラックを選ばないため、大きく費用が異なる。

社内でその話をすると、「①トレーにあった番重はない」「②製造工程で1手間増えるため受け入れて貰えない」「③店舗ではラックにトレーを納品した状態でないと開店オペレーションを圧迫する」といった、出来ない理由ばかりが次々と挙がってくる。ひとつずつ解決していくことにした。

①について、番重メーカに自ら電話して聞いたところ、食品用では確かにサイズにあった番重は存在しない。特注だと膨大な費用がかかる。しかし、粘り強く話を進めるうちに、別の手段が見えてきた。
工業用の部品を納めるプラスチックトレーなら、という話になり、早速試用してみることにした。実際使ってみると全く問題なく、番重自体は若干高いが、1カ月分の配送料の差額で十分payできる投資だった。

②製造時の手間については、当時の製造委託会社の社長が、快く協力をして下さった。過去当該社長が、経営再建をしたときに物流費が大きなネックだったという共通点もあり、大変共感して下さった。
③店舗納品については、新規の物流会社さんで、当該作業を引き受けてくれる会社を探すことで解決した。

トラック稼働率の向上 

トラック稼働率の低さの原因のひとつは 小規模納品の卸先が多いことにあった。
10個未満/日にも関わらず、毎日納品しているカフェなどの卸先が多数存在していたため、トラックのうち1台はこうした先をメインに回り、トラック搭載率が低くなっていた。物流費のほうが限界利益を上回る顧客が多かった。
大変心苦しかったが、どれだけ小さい卸先様にも直接私が訪問し、理由を説明したうえで、今後商品が小ロットでは提供できない旨を説明し、納得して頂いた。 


こうした変更によって、トラックサイズを物流に合わせて変更できるようになったことは、物流費の削減と、物流費の一部変動化につながった。
後に訪れる急激な売上高低下の際に大いに役立つのだが、このときは知る由もない。

 

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MBA留学② ~バブソンMBAの特徴(後編)~

起業学

バブソンMBAでは、起業という分野に関する膨大なデータを持って体系的に学術的かつ実践的に学ぶ。
起業を学ぶとはどういうことか?と正直ここに来る前まではピンと来なかったが、複数事例を学ぶうちにスタートアップならではの共通する失敗事項、それに対するアプローチがあることが見えてくる。
 

Quick and Dirty

バブソンMBAの中で特に、印象的だったもののひとつは「Quick and Dirty」という考え方だ。具体的にいうと、ニーズが無い商品/サービスは無価値という思想のもと、早期のプロトタイプ及び顧客フィードバックの場を強制される。日本人的感覚でいえば、やる前にもっと議論してから、練ってから…となりがちだが、ここでは早期にPDCAを回すことが求められる。
確かに実感して思ったが、気軽にできるし、早いし、効果は大きい。例えば、抹茶を海外の人向けにどう提供するかと考えていた時に、自分の仮説とグル―プの仮説を基に、構内で150人弱に1時間で実験をしたところ、国籍別に顕著な傾向が見てとれ、マンゴー抹茶やココナッツ抹茶等、日本人からは想像できない商品のウケが良かったことに衝撃をうけた。
この時、授業で紹介された失敗例は、卓越したエンジニアが、技術をメインに全財産を賭けて製品を創り上げたが、結局ニーズが無く、会社も潰れてしまった例だった。一見すると当然と思うかもしれないが、自分で実践してみるとよく理解できる。
 

組織形成

組織形成では、企業の成長フェーズに応じて求められるリーダーシップのスタイルや陥り易い間違いなどをケースを通じて学ぶ。
起業家としてビジョンの設定や戦略策定能力はもちろん、経営者として常に客観性を保ちながら組織を成長させていくためのエッセンスを学んでいく。
例えば、数多くの起業家が創業メンバーとして、自分の友人や身内など、客観性を保ちにくい環境のなかでビジネスを始めていく。その中で組織を成長させるには、自分より経験豊富で客観的な意見を提供するアドバイザーが重要だ。概して、起業家は良い意味でも悪い意味でも癖のある人が多いので、特に組織が大きくなっていく過程で、客観的にstopをかけることができるアドバイザーが、多くの成功したベンチャーで必須の働きをしている。また、組織の成長に伴って起業家の役割は変遷する。その過程を6段階に整理して、それぞれの段階で必要な組織のあり方や人材、さらには起業家の関わり方が体系的に整理されている。例えば、起業がサバイバル期(一番最初。とにかく損益分岐を超えないといけない時期)を超えると、成長に備えて起業家の主な仕事は資金調達に変わっていく等。
 

資金調達

資金調達では、資金繰りの交渉や(掛け金など)、VC投資以外のビジネスパートナーとの戦略的提携など、様々なオプションについて具体例やケースを基に起業家の立場で議論していく。
VC投資は注目されやすいが、アメリカでの実際の資金調達のうちVCからは10%以下だ。従来の銀行からの融資、FIn techを始めとした最先端の資金調達方法、さらには取引先(例えば卸業者、小売業者や、生産者と小売業者など)間での調達によるメリットを議論する。
 
業界経験を豊富に持つ投資家が、お金だけでなく事業に対するアドバイスや人事に関するアドバイスをしていく事例もいくつか取り上げられた。実際に投資を受けたイスラエルの起業家に話を聞くことができたが、投資家、起業家双放が互いの価値観やバリューを認識しており、互いにリスペクトしている点がとても新鮮だった。
 
ほかにも、「資金調達はプレゼン力だ」と豪語する教授の元、銀行の融資責任者等に正確な質問をぶつける(外れたことを言うと普通に流される)のも良い訓練となる。
Fintech については、peer to peer lending を始めとした、新たな資金調達方法についても起業家は常に耳を傾けておく必要がある。
現在開発中のサービスの中には、企業がPlat form上で融資希望を出すと、世界中の銀行が当該案件を審査して融資のofferを出すといった仕組みまで検討されているらしい。
 
 

バブソンMBAの授業以外における支援

授業以外では、Blank Centerという起業家支援の組織が存在する。ビジネスプランを応募すると、ビジネスの具体性に基づいて、3段階に仕分けられそれぞれにカウンセラーが付く。カウンセラーだけでなく、弁護士や会計士など起業家に必要なリソースを自由に活用できる。さらに、ロゴデザインや創業者間の株式の分割に関する授業など、起業家ならではのニッチな授業も無料で提供している。
年に2回、Rocket Pitchという3分間のビジネスアイデアをプレゼンするコンテストがあり、そこでメンバーを募ったり、投資家を募ったりする機会がある。私も昨年参加した。
 
さらに、ビジネス分野別にチームが活動している。私の場合「食」なのでFood Solという組織があり、毎週フードビジネスの起業家を学校に呼んで座談会を開設したり、ボストン市内で行われるフードビジネスに関するイベントにバブソンMBAから派遣されることもある。私も、food universityというフードビジネスの起業家、エンジェル投資家、大手小売経営者など、関連するビジネスマンが集まるイベントに参加し、そこでプロトタイプを持っていき、貴重なフィードバックや出会いを頂いた。

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MBA留学➀ ~バブソンMBAの特徴(前編)~

バブソンMBAは、Financial TimesやUS Newsで、Entrepreneurship(起業)分野で世界一を取り続けている学校である。有名な卒業生の経営者でいうと、トヨタ自動車の豊田社長、イオンの岡田社長、佐藤製薬の佐藤社長などがいる。その他にも多くの経営者/起業家が活躍されている。バブソンMBAの特徴を伝えられたらと思う。 

生徒構成

バブソンMBAは、1学年150名程度の小規模なコースである。また、アメリカ人以外の国籍の生徒が60~70%を占めている。多いのはインド人、メキシコ人、タイ人といった順位で、日本人は毎年4名程。
何よりも特徴的なのは、ファミリービジネス出身者、次期経営者の割合の高さである。南米や東南アジア等、大企業の多くがファミリービジネスからなる国々は多数ある。そういった国々から、次期経営者としてやってきている生徒が全体の約4割~5割程を占める。企業への就職活動をしている生徒は半分以下と少なく、生徒の多くがファミリービジネスへ経営者として戻ることを想定した準備や、新規事業を行うための起業準備を行っている。1つ上の日本人の先輩も、現在CEOとして外国人とチームを組み、Crowdfunding を目下実施中である(Teplo社)。 
 
生徒間の競争(就職競争)という意識があまりないので、協調的でそれぞれが他生徒の成功を応援するという校風だ。
アメリカ東海岸には他にも多くのビジネススクールがあるが、生徒は起業ではなく一流企業への就職を目標としている、という点でバブソンとは大きく異なる。
 
私自身は、グローバルな環境で多様なバックグラウンドを持った人と仕事をする方法や経験を持ちたっかたこと、グローバルに経営者として同じ視点を持てる友人が欲しかったことからバブソンへの留学を決意した。過去にコンサルタントとして、製菓会社の経営者として、経営ということに触れる機会はあったが、グローバルな人材をマネージする経験やそういった人たちと交流を持つ機会はなかった。バブソンMBAが提供するダイバーシティな環境はなかなか他にはないのではないかと思う。
 

授業の特徴

起業家をテーマにしたケースや授業の量が圧倒的に多いこと、ダイバーシティを重んじたグループワークの量が多いことが大きな特徴である。
 

■Entrepreneurship(起業家精神)

まずEntrepreneurshipという授業が最初にあり、ここでは全生徒が3分間のビジネスアイデアのプレゼンをしたり、校外でプロトタイプを試したり、教室内でプロトタイプのコンペをしたり、当該アイデアのフィージビリティスタディが期末試験代わりだったりと、極めて実践的だ。私の場合、留学前から温めていた抹茶ビジネスのプランをチームメンバーと共に行い、アメリカ市場やグローバルカスタマーのニーズ調査を授業の中で行った。
また、授業で取り上げられるビジネスケースのうち、起業家に関するケースの数が多く、その質は非常に高い。スタートアップから10億円、100億円と規模が大きくなるにつれて起こる資金繰りや人材難等の問題から、ある一定の規模になった時に経営者として、成長か、従業員の幸せか、自身の生活か、人生の優先順位に関する判断を決断を迫られる場面など、リアリティーのあるケースが多い。また、ケースの当事者である起業家が授業に登場し、質問をぶつけることができるのもおもしろい。
 

■グループワーク

グループワークは、文化、働き方の違い、価値感の違いなどにぶつかる貴重な経験ができる。1年に2回のチーム編成があり、半年間は同じチームで課題をこなす。チームで、5ドルを元手にビジネスアイデアを考えたり、24時間耐久のレポート課題をやったり、差別やダイバーシティについて議論したりと、様々な角度からの協調を求められる。
最初のチームは、インド人2人、タイ人1人、コロンビア1人、アルゼンチン人1人、日本人(私)の計6人構成で、2回目のチームは、インド人2人、アメリカ人2人、日本人(私)の計5人の構成だった。
最初のチームでは、時間が全く守られないといったことから(約束の1時間後に皆が集まったり)、もの凄い勢いで全員が喋ったり・・(とにかく自分を主張することが是とされる環境の国もある)。
最初はどう貢献するか困ったが、このとき役立ったのはコンサル時代に培ったロジカルに整理する力だった。目的を捉え、作成したフレームワークを基に整理し議論するというのは、価値観や考え方の違いが多様な環境では特に威力を発揮する。2つ目のチームになると、生徒はダイバーシティに富んだ環境を経験したことで成長し、ワークがとても効率的になっていく。話を聞くようになるし、ワークロードや分担、それぞれの強みを活かすといったチームワーキングスタイルになっていくのが興味深かった。
 
このグループワークからの気づきのひとつは、ダイバーシティ―な環境になっても、チームをマネージする本質は変わらないということだ。
国籍問わず、仕切るのがうまい人はそれを強みに、数字に強い人はそれを強みとしてチームに貢献する(国によって数字に弱い強い、などはあるが)。
個々の強みを引きだし、生かすことが円滑なチーム運営に欠かせない。
話が冗長的な人は良く聞いて意図をくみ取る、他の生徒の出方を予想して先回りして情報収集や予習をしておく、日本にいても変わらない。
最初はストレスに感じることも多かったが、今となってはこのチームワークが何よりも大きな学びと思う。

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